ESG投資の落とし穴|グリーンウォッシュを見破る方法と本物のESG企業の選び方
統合報告書の表紙は青空と風車、中を開けば「2050年カーボンニュートラル」の大きな文字。 ところが排出量のページまでたどり着くと、肝心の数字がどこにも見当たらない——そういう会社が、いまだに珍しくありません。 この記事では、実態の伴わないESG=グリーンウォッシュを、公開情報だけで見分ける手順を、私が実際に使っている順番どおりに書きます。
グリーンウォッシュは「嘘」ではなく「編集」で作られる
誤解されやすいのですが、グリーンウォッシュの大半は虚偽記載ではありません。 書いてあることは事実です。問題は、都合のいい事実だけを選び、都合の悪い事実を書かないという編集にあります。 虚偽ではないので監査でも引っかからず、レポートは受賞したりもします。
だから読み手側は「何が書いてあるか」ではなく、「何が書かれていないか」を探す読み方に切り替える必要があります。 以下のチェックは、すべてその発想で組み立てています。所要時間は1社あたり30分ほどです。
チェック1:Scope 3を開示しているか(最重要)
私が最初に見るのは、ここだけです。Scope 3を出していない会社は、他が何点だろうと保有候補から外しています。 温室効果ガスの排出量は3つに分かれます。
- Scope 1:自社の燃料燃焼などによる直接排出。工場のボイラー、社有車など。
- Scope 2:購入した電気・熱の使用に伴う間接排出。再エネ電力への切り替えで下がる部分。
- Scope 3:それ以外のサプライチェーン全体。原材料の調達、輸送、製品の使用段階、廃棄まで。15のカテゴリに分かれます。
製造業では、このScope 3が総排出量の7〜9割を占めるのが一般的です。 自動車のように販売した製品が長期間燃料を使う業種では、9割を超えることもあります。 つまりScope 1・2だけを削減して「排出量を大幅削減」と書くのは、全体の1〜3割の話をしているにすぎません。
見るべきは開示の有無だけではなく、どのカテゴリを出しているかです。 カテゴリ1(購入した製品・サービス)とカテゴリ11(販売した製品の使用)は、多くの業種で最大の項目になります。 この2つを飛ばして、出張や通勤といった小さいカテゴリだけ並べているレポートは、正直に言って印象操作に近いと私は考えています。
チェック2:削減目標の「基準年」が有利に取られていないか
次に見るのが基準年です。削減率は、どこを起点に測るかで見た目が大きく変わります。 過去に排出量が最大だった年を基準年に選べば、何もしなくても削減率は積み上がります。
典型的なのが、リーマンショック前の生産ピークや、大型設備の稼働ピークを基準年にしているケースです。 その後の減産や事業売却で下がった分まで、削減努力として計上されてしまいます。 私が実際に確認して驚いたのは、ある素材メーカーの「基準年比40%減」の内訳のうち、 半分以上が不採算事業の売却による連結範囲の変更だったことでした。減らしたのではなく、手放しただけです。
確認の手順は単純です。
- 基準年と直近年の売上高・生産量を並べる。事業規模が縮んでいれば、排出量が減るのは当然。
- 原単位(売上高あたり、生産量あたりの排出量)の推移を探す。総量ではなくこちらが実力値。
- 期間中のM&A・事業売却の有無を確認する。有価証券報告書の沿革やセグメント情報で分かります。
なお、日本政府の目標が2013年度を基準年としている関係で、国内企業の多くも2013年度基準を採用しています。 これ自体は妥当ですが、2013年度が自社の排出ピークだった企業では、下駄を履いた数字になりやすい点は意識しておくべきです。
チェック3:カーボンクレジットへの依存度
「2030年にカーボンニュートラル達成」と書かれていても、その中身が自社削減なのか、外部から買ったクレジットによる相殺なのかで意味はまったく違います。 私が見ている基準は次のとおりです。
- 相殺比率が目標の1割未満:自社削減が主軸。妥当な使い方だと評価しています。
- 1〜3割:許容範囲ではあるものの、クレジット価格の上昇がコスト要因になり得ます。
- 3割超:実質的に「排出を減らさずにお金で解決する」計画。私は警戒します。
クレジットの質も差が大きい領域です。森林保全型のクレジットについては、 削減量の算定根拠が過大だったとして国際的な批判が繰り返されてきました。 どの制度(J-クレジット、国際的な認証制度など)のどの種類を、いつ購入したのか。 ここまで書いている会社は、少なくとも自覚的です。「クレジットを活用します」の一行で終わっている場合、中身は決まっていないと考えたほうが現実的です。
チェック4:第三者保証とガバナンスの実態
排出量データに第三者保証が付いているかは、数字の信頼性を測る最短の指標です。 保証報告書は通常、ESGデータ集の末尾に添付されています。ここで見るのは3点です。
- 保証の範囲:Scope 1・2のみか、Scope 3まで含むか。多くはまだ1・2止まりです。
- 保証水準:限定的保証か合理的保証か。財務諸表監査に近いのは後者ですが、採用例はまだ少数です。
- 保証機関:監査法人系か、審査登録機関か。継続して同じ機関か。
ガバナンス面では、私は役員報酬にESG指標が組み込まれているかを重視しています。 報酬に紐づいていない目標は、達成できなくても誰も困りません。 逆に、業績連動報酬の評価指標に排出量削減が明記され、その比率まで開示している会社は、少なくとも本気度が制度に落ちています。 あわせて、取締役会の社外取締役比率、政策保有株式の縮減方針の3点をセットで確認しています。
注意:ESG評価機関のスコアは、評価機関ごとに算出方法が異なります。 同じ企業がMSCIでは上位、別の機関では平均以下、ということが普通に起こります。 スコアが高いこと自体は「見破った」ことにはなりません。 私は過去にスコアだけを根拠に買い、Scope 3の未開示を後から知って撤退した経験があります。 スコアは検索の入口、判断の根拠は一次情報。この順序は崩さないほうがいいと考えています。
30分でできるチェックリスト
最後に、実際に私が使っている順番をまとめます。上から順に見て、途中で脱落したらそこで終了です。
- Scope 3を開示しているか。カテゴリ1と11があるか。なければ終了。
- 基準年はいつか。その年の売上高・生産量は直近と比べてどうか。
- 原単位ベースの推移が改善しているか。総量だけの改善で終わっていないか。
- 目標達成のうち、カーボンクレジットによる相殺が何割を占めるか。
- 排出量データに第三者保証が付いているか。範囲はどこまでか。
- 役員報酬にESG関連指標が組み込まれ、その比率が開示されているか。
- 過去3年のレポートを並べて、目標が静かに引き下げられていないかを確認する。
最後の項目は見落とされがちですが、効果が大きい確認です。 過年度のレポートは各社のサイトにバックナンバーが残っていることが多く、 目標年度が後ろ倒しされていたり、対象範囲が「国内グループ」に狭められていたりする変更が、注記なしで行われている例に何度か出会いました。
逆に言えば、ここまで開示している企業は情報開示の体制そのものが整っているということでもあります。 グリーンウォッシュを避ける作業は、結局のところ開示品質の高い企業を選ぶ作業とほぼ同じです。 私はそれを、環境の話というより、経営の質を測るスクリーニングとして使っています。