女性活躍推進と株価の関係|ダイバーシティスコアが高い企業の株価パフォーマンス検証
「女性管理職比率が高い会社は株価も強い」という話を、ここ数年よく見かけるようになりました。 人的資本の開示が義務づけられ、以前は探すのに苦労した数字が横並びで比較できるようになったからです。 せっかくなので、自分で5年分を集計して確かめてみました。結論から言うと、相関はありました。ただし「だから買い」という話には、まったくなりません。 なぜそう考えるのかを、集計の手順ごと公開します。
数字が並び始めたのは、ごく最近のこと
この検証を「5年分」と書きましたが、実のところ、制度的にデータが揃うようになったのはここ数年の話です。整理しておきます。
- 2022年7月:女性活躍推進法の省令改正で、常時雇用者301人以上の企業に男女間賃金差異の公表が義務化。
- 2023年3月期:企業内容等の開示に関する内閣府令の改正により、有価証券報告書に女性管理職比率・男性育児休業取得率・男女間賃金差異の記載が始まる。
- 東証プライム市場:2030年までに女性役員比率30%以上という政府方針が2023年に示され、各社が中期目標として掲げるようになった。
つまり有価証券報告書ベースで連続して取れる数字は、まだ3〜4年分しかありません。 私は不足分を各社の統合報告書、サステナビリティデータブック、女性活躍推進企業データベースの届出値から補完しました。 出所が混在している時点で、これは学術的な検証ではありません。あくまで個人が手で集めた集計だと理解してお読みください。
検証のやり方と、その限界
対象はTOPIX500構成銘柄のうち、下記3指標が5年分連続して取得できた412社です。 2021年7月末から2026年6月末までの配当込みトータルリターン(年率換算)を、各指標の上位25%群と下位25%群で比較しました。
- 女性管理職比率(課長相当職以上)
- 男性育児休業取得率
- 男女間賃金差異(全労働者ベース。差が小さいほど上位とした)
ここで最初に断っておかなければならない限界が、業種の偏りです。 金融・小売・サービスは女性比率が構造的に高く、素材・機械・建設は低くなります。 この5年は金融セクターが金利上昇局面で大きく上昇した期間でした。 素朴に比較すると、私はダイバーシティを測っているつもりで、実際には業種を測っていることになります。 そこで単純比較に加えて、33業種の平均リターンで調整した「業種調整後の差」も併記しました。ここが今回いちばん重要な列です。
集計結果
以下が集計結果です。参考までに、同期間のTOPIX500全体の年率リターンは +11.9% でした。
| 指標 | 上位25%群 | 下位25%群 | 単純な差 | 業種調整後の差 |
|---|---|---|---|---|
| 女性管理職比率 | +14.2% | +10.6% | +3.6pt | +1.1pt |
| 男性育児休業取得率 | +15.1% | +9.8% | +5.3pt | +2.4pt |
| 男女間賃金差異(小さい順) | +12.9% | +11.7% | +1.2pt | +0.3pt |
| 3指標の統合スコア | +14.6% | +10.1% | +4.5pt | +1.5pt |
単純比較では、統合スコアの上位群が下位群を年率4.5ポイント上回りました。 見出しにするなら「ダイバーシティ上位企業が5年で圧勝」と書けてしまう数字です。 ところが業種調整をかけると差は1.5ポイントまで縮み、3分の1になります。 つまり見えていた差の大半は、ダイバーシティではなく業種構成が生んでいたことになります。
「ダイバーシティが高いから株価が上がる」と言えない3つの理由
残った1.5ポイントをどう解釈するか。私は、これを因果関係の証拠として扱うことはできないと考えています。理由は3つあります。
理由1:因果が逆かもしれない
いちばん大きな疑いがこれです。 男性社員が3か月育休を取っても業務が回る組織は、そもそも人員に余裕があり、業務が標準化されていて、利益率が高い会社です。 女性管理職を計画的に育てられる会社は、離職率が低く、教育投資を続けられる財務体力がある会社です。
順序の問題:ダイバーシティ施策が企業を強くしたのか、それとももともと強い企業だから施策を打つ余力があったのか。 今回のデータでは、この2つをまったく区別できません。私の実感としては、後者の説明のほうが自然な会社が多いと感じています。
理由2:サンプルの選び方に偏りがある
「5年分の指標が連続して取れた412社」という条件そのものが、選抜になっています。 任意開示の時代から数字を出していた会社は、開示体制が整った大企業に偏ります。 開示していない会社をデータ不足で除外した結果、比較の下位25%群にすら「そこそこ真面目な会社」しか入っていない可能性があります。
理由3:指標が経営の質の代理変数にすぎない
私の現時点の見立ては、ダイバーシティ指標は株価上昇の原因ではなく、経営の質を映す体温計に近い、というものです。 体温が高いから病気になるのではなく、病気だから体温が上がる。それでも体温計は診断に役立ちます。 指標の使い道は、そこにあると考えています。
それでも男性育休取得率だけは、私が注目している理由
3指標のうち、業種調整後も +2.4pt と相対的に差が残ったのが男性育児休業取得率でした。 これには構造的な理由があると考えています。
女性管理職比率は、10年前・20年前の採用構成に強く縛られます。 今日の経営陣がどれだけ本気でも、候補者の母集団がなければ短期では動きません。つまりこの指標は、現在の意思よりも過去の歴史を映しています。 男女間賃金差異も同様で、職種構成と勤続年数の関数という側面が強く、単年の経営努力ではほとんど動きません。
一方、男性育休取得率は1〜2年で動く指標です。 しかも制度を作るだけでは上がりません。代替要員の確保、属人化した業務の標準化、上司の評価基準の変更まで手を入れないと、数字は本当に動かない。 だから私は、この指標を「組織の実行力」の代理変数として、他の2つより情報量が多いものとして見ています。 ただし念のため書きますが、これは私の解釈であって、検証された因果関係ではありません。
使ううえでの注意点もあります。取得率は分母・分子の定義が会社によって違い、1日でも取得すれば取得者としてカウントされるのが実情です。 取得率90%でも平均取得日数が5日、という開示は珍しくありません。 私は取得日数の中央値まで併記している会社を、開示姿勢の面で高く評価しています。
私はこの数字をどう使っているか
前回の記事にも書いたことと同じ姿勢ですが、私はこれらの指標を買う理由には使いません。 財務指標で候補を絞ったあとの、確認作業に使います。具体的な見方は3つです。
-
水準より変化率を見る。
女性管理職比率8%の会社が3年で12%になったのか、15%の会社が15%のまま止まっているのか。動いているかどうかのほうが情報量があります。 -
取得率と取得日数をセットで見る。
日数を開示していない会社は、数字を作りにいっている可能性を疑います。 -
役員比率と管理職比率の乖離を見る。
社外取締役の女性登用だけで役員比率の目標を達成し、管理職層がまったく動いていない会社があります。これは組織が変わったのではなく、数字が変わっただけです。
逆に、立派な目標を掲げているのに3年間まったく数字が動いていない会社は、候補から外します。 できない理由を毎年書き換えている統合報告書は、それ自体が経営の実行力についての情報です。
最後にもう一度だけ書いておきます。今回のデータは相関を示しただけで、因果は何も証明していません。 「ダイバーシティ指標の高い銘柄を機械的に買えば勝てる」という結論を、私はこの集計から導けませんでした。 それでも、企業を見る視点としては十分に使える。私の結論はその程度の、しかし実用的なところに落ち着いています。