私がESG投資を始めたきっかけ|利益と社会貢献を両立させる投資哲学
ESG投資を始めて3年が経ちました。最初は「社会的にはいいことだけど、リターンは犠牲になるのでは?」という懐疑心を拭えずにいました。 いまは心から納得して続けています。この記事では、私がESG投資に踏み出したきっかけと、 実際の運用成績を良かった部分も悪かった部分も含めて正直に公開します。
きっかけは、投資とは無関係の出張だった
2023年の春、勤めていた会社の出張でデンマークのコペンハーゲンに2週間滞在しました。 投資とはまったく関係のない、製造ラインの視察が目的です。 そこで驚いたのは、取引先の担当者が製品の品質の話をする前に、自社の再エネ調達比率とサプライチェーンの排出量の話を延々としてきたことでした。
当時の私にとって、環境対応は「コスト」でした。やらないと怒られるからやる、という位置づけです。 ところが彼らにとっては受注の前提条件であり、むしろ営業上の武器でした。 排出量を開示できない企業は、そもそも見積もりの土俵に上がれない。そういう世界がすでに動いていたのです。
帰国後、自分のポートフォリオを開いて愕然としました。保有していた中小型の製造業のうち、 サステナビリティレポートを出している会社は1社もありませんでした。 「環境に配慮した会社に投資したい」という話ではなく、その情報を開示できない会社は、数年後に取引先を失うのではないかという、ごく実利的な不安でした。 これが出発点です。
「リターンが犠牲になる」という思い込みの正体
ESG投資に対する典型的な批判は、「投資対象を絞る分だけ分散が効かず、リターンが落ちる」というものです。 理屈としては正しく、私も最初はそう考えていました。実際に調べてみると、話はもう少し複雑でした。
ネガティブ・スクリーニングとインテグレーションは別物
ひとくちにESG投資と言っても、手法によって性格がまったく異なります。ここを混同したまま議論すると噛み合いません。
- ネガティブ・スクリーニング:化石燃料・たばこ・武器などを機械的に除外する。除外したセクターが上昇した局面では、素直に負けます。
- ESGインテグレーション:財務分析にESG要因を「追加の変数」として組み込む。除外はせず、リスク評価の精度を上げる使い方。
- エンゲージメント:株主として対話・議決権行使で改善を促す。個人投資家には現実的に難しい領域。
私が採用したのは2番目です。ESGスコアそのものを買う理由にはせず、「同じくらい魅力的な2社で迷ったときの判断材料」として使う。 この位置づけに変えてから、パフォーマンスへの過度な期待も不安もなくなりました。
実際の運用成績を公開します
以下は、私のESG関連の保有分(ポートフォリオ全体の約4割)の年次リターンです。 比較対象としてTOPIX(配当込み)を併記しました。売買手数料・税金は控除前、円建てです。
| 年 | ESG関連保有分 | TOPIX(配当込み) | 差 |
|---|---|---|---|
| 2023年 | +18.4% | +25.1% | −6.7pt |
| 2024年 | +22.7% | +14.9% | +7.8pt |
| 2025年 | −3.1% | +2.4% | −5.5pt |
| 2026年(7月時点) | +11.2% | +9.8% | +1.4pt |
率直に言って、「ESGだから勝てた」とは言えない数字です。3年半の累計ではTOPIXにわずかに負けています。 特に2023年は、除外していた資源・エネルギーセクターが大きく上昇した年で、素直に取り残されました。
それでも続けている理由は、ドローダウンの浅さにあります。 2025年の調整局面で、私の保有分の最大下落率は−11.8%でした。同時期のTOPIXは−17.3%です。 ガバナンス体制が整った企業は、不祥事や情報開示の不備による突発的な急落が起きにくい。 これは3年間で最も実感した効果でした。
ESG投資で失敗した2つのケース
ケース1:スコアだけを見て買った再エネ関連株
2023年に、ESGスコアが業界最高水準だった中堅の再エネ事業者を買いました。 買った理由は、正直に言えばスコアが高かったからです。 しかし決算を追っていくと、売上高の伸びに対して営業利益率が一貫して低下していました。 固定価格買取制度の単価下落を、規模拡大で埋めようとして採算が悪化していたのです。
教訓:ESGスコアは「事業の持続可能性」を測る指標であって、「収益性」を測る指標ではありません。 両者は別の話です。私はこれを混同していました。最終的に−28%で損切りしています。
ケース2:グリーンウォッシュを見抜けなかった
統合報告書に美しい脱炭素ロードマップを掲げていた会社が、 実際にはScope 3(サプライチェーン全体の排出量)をまったく開示していませんでした。 Scope 1・2(自社の直接排出と電力由来)だけを削減して「大幅減」と謳っていたのです。 製造業でScope 3を出さないのは、事実上、排出量の8割を語っていないのと同じです。
いまはScope 3の開示有無を、最初のチェック項目にしています。 開示していない時点で、その企業の脱炭素は掛け声の段階だと判断します。
私がいま守っている3つの原則
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ESGを「買う理由」にはしない。「外す理由」に使う。
財務指標で候補を絞ったあと、ガバナンスに不安がある企業を外す。順序が逆になると、必ず割高なものを掴みます。 -
一次情報に当たる。スコアは補助線。
統合報告書のScope 3、取締役会の社外取比率、政策保有株の縮減方針。この3つは必ず自分の目で確認します。 -
テーマではなく企業を買う。
「水素が来る」「洋上風力が来る」でセクターごと買うのは、私にとっては単なるモメンタム投資でした。 その企業がそのテーマで実際に利益を出せる構造にあるか。ここを外すと、テーマが正しくても損をします。
これから始める人へ
3年やってみた結論として、ESG投資は「儲かる手法」ではなく「大きく間違えにくくする枠組み」だと考えています。 市場平均を大きく上回ることを期待して始めると、たぶん失望します。 一方で、長期で保有する前提なら、ガバナンスと情報開示の質を見る習慣は確実に効いてきます。
まず個別株からではなく、コストの低いESG関連のインデックスファンドで感触をつかむのが現実的だと思います。 そのうえで、自分が本当に応援したいと思える企業を1社ずつ調べていく。 私の場合、この順序で進めたことで、相場が荒れたときにも保有を続けられました。
次回は、Scope 3の具体的な読み方を、実際の統合報告書を例に解説する予定です。 質問があればコメント欄に書いてください。可能な範囲でお答えします。