洋上風力発電株|三菱重工・日立造船・東洋建設の実力比較と市場成長の見通し
洋上風力は、日本の再エネ政策のなかで最も大きな数字が並ぶ分野です。 ところが「政策の追い風があるから関連株は伸びる」という説明を、私はそのまま受け取れずにいます。 世界では大型案件の中止と減損が相次ぎ、国内でも入札を落札した事業者が撤退したからです。 三菱重工業・日立造船(現カナデビア)・東洋建設の3社がバリューチェーンのどこにいるのかを整理し、この産業が抱える逆風を正面から書きます。
日本の洋上風力は、いまどこまで来たか
制度の起点は2019年施行の再エネ海域利用法です。国が「促進区域」を指定し、公募で30年間の占用が認められる事業者を選ぶ仕組みで、これで初めて大規模な洋上風力が事業として成立しました。
国が掲げている案件形成の目標は、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万〜4,500万kWです。 入札の実績も並べておきます。第1ラウンド(2021年12月結果公表)は秋田県2海域と千葉県銚子沖の計3海域・約170万kWで、三菱商事を中心とする陣営が全区域を落札しました。 供給価格は11.99〜16.49円/kWhと、事前の想定を大きく下回る水準です。 第2ラウンド(2023年12月)は秋田・新潟・長崎の4海域で計約180万kW、以降も青森・山形沖などで公募が進んでいます。 制度としては、確かに前に進んでいます。
もうひとつ、日本固有の条件を押さえる必要があります。着床式と浮体式の違いです。 海底に基礎を打ち込む着床式は、モノパイルなら水深およそ50〜60mまでが実用範囲とされます。 ところが日本は沿岸からすぐ深くなる海域が多く、欧州の北海のような遠浅の海はごく限られています。 中長期では浮体式が主役にならざるを得ませんが、浮体式は世界的にも商用化の初期段階で、コストは着床式より明確に高い。 国内では長崎県五島市沖で浮体式の商業運転が始まったものの規模はまだ小さく、量産段階には入っていません。
バリューチェーンのどこで稼ぐのか ── 日本勢は風車本体にいない
洋上風力の事業費は、おおまかに4つの層に配分されます。ここを分けずに「洋上風力関連株」と括ると、まず判断を誤ります。
- 風車本体(ナセル・ブレード・タワー):事業費の3〜4割を占める最大の塊。世界市場はヴェスタス、シーメンス・ガメサ、GEベルノバ、中国メーカーが握っています。
- 基礎構造物:モノパイル、ジャケット、浮体。鋼材を大量に使う重量物で、国内では鉄鋼・重工系が製造能力の整備を進めています。
- 据付・海洋土木:風車の据付、海底ケーブル敷設、港湾整備。建設業の領域です。
- O&M(運転保守):20〜30年続く長期の保守収入。規模は小さいが読みやすい収益です。
ここでいちばん重要な事実を書いておきます。この4層のうち、最も金額の大きい風車本体から日本勢は実質的に退場しています。 三菱重工がヴェスタスとの合弁を解消し、日立製作所も風車の自社生産から撤退しました。 国内で洋上風力が何基建っても、風車そのものの利益は海外メーカーに落ちる構造です。日本企業が取りにいけるのは、残りの3層になります。
三菱重工業 ── 本体を捨てて、周辺に残った会社
三菱重工は2014年にデンマークのヴェスタスと洋上風力の合弁会社「MHIヴェスタス」を設立し、欧州で相応の実績を積みました。 しかし2020年に合弁を解消し、持分をヴェスタスに譲渡して、代わりにヴェスタス本体の株式を数%取得する形に切り替えています。
風車本体の製造は、大型化競争と価格競争が同時に進む消耗戦です。製品サイクルが短く、1機種の開発に巨額を投じても数年で陳腐化する。 三菱重工はここで「自社でつくる」ことをやめ、株主として果実を受け取りつつ、国内では販売と保守を担う立場に移りました。経営判断としてはむしろ現実的だったと見ています。
その結果、同社の関与は国内でのヴェスタス製風車の販売・アフターサービス、周辺機器や港湾・電力設備が中心になります。 ただし率直に書くと、三菱重工の業績を洋上風力で語るのは無理があります。 稼ぎ頭はガスタービンを中心とするエナジー部門と、伸びの大きい防衛・宇宙部門です。 洋上風力は売上構成比で見れば埋もれる規模で、株価が洋上風力のニュースで動いたとしても、それは業績の反映ではなく連想にすぎません。
もうひとつ、投資家がよく混同する点を書いておきます。第1ラウンドを落札したのは三菱商事であって、三菱重工ではありません。 そして2025年、その三菱商事は資材費と金利の上昇で採算が成立しないとして、落札した3事業からの撤退を表明しました。事業リスクを負っていたのは商社側です。
日立造船(カナデビア) ── 洋上風力は主戦場ではない
日立造船は2024年10月に社名をカナデビアへ変更しました。旧社名に「造船」が残っていましたが、 同社はすでに造船事業から撤退しており、実態はごみ焼却発電プラントを主力とする環境・機械メーカーです。 収益の柱はごみ焼却発電施設の建設とその後の運営・保守で、国内では最大手級。更新需要と長期運営契約に支えられた安定的な事業になっています。
では洋上風力はどうか。同社は基礎構造物や関連機器といった周辺領域での参入を目指す立場にありますが、 洋上風力単独の受注残や売上を分けて開示していません。外部の投資家がこの分野の進捗を数字で追うことは、現状ではできません。 複数期の決算資料を確認しましたが、洋上風力が業績を動かす規模に達している形跡は見つけられませんでした。
これは欠点というより位置づけの問題です。3社のなかでこの会社だけは、洋上風力が来なくても本業で成立します。 逆に言えば洋上風力を理由にこの会社を見るのは順序が逆で、見るべきはごみ焼却発電の受注環境と長期運営契約の積み上がりのほうだと考えています。
東洋建設 ── 「工事で稼ぐ」モデルの強さと脆さ
東洋建設は海洋土木を主力とするマリンコンストラクター(マリコン)で、港湾工事、埋立、防波堤、ケーソン据付といった海中の構造物をつくる工事を長年手がけてきました。 洋上風力で必要になる基礎工事・海底地盤改良・港湾の受入設備整備は、まさに同社の本業の延長線上にあります。
3社のなかで、洋上風力が売上に直結する度合いが最も高いのはこの会社です。案件が着工すれば工事高として計上され、しかも国内の大水深・高波浪の現場で施工できる事業者は数えるほどしかありません。 風車の据付に使うSEP船(自己昇降式作業台船)は1隻で数百億円規模の投資になり、保有できる企業は限られます。
ただし、このモデルには構造的な弱さがあります。 第一に、工事会社は案件が動かなければ売上が立ちません。発電事業者が採算を理由に案件を止めれば、紐づく工事は消えます。三菱商事の撤退は、まさにこのリスクが現実になった事例です。
第二に、工事は請負であり、資材費・人件費・工期遅延のリスクを施工者が抱えがちです。 鋼材価格や労務費の上昇は受注時点の見積もりを侵食します。売上が増えても利益が増えないという事態は、建設業では珍しくありません。
第三に、ガバナンス面の経緯も無視できません。同社は2022年前後に大株主による買収提案と経営陣との対立が表面化し、資本政策をめぐる攻防が長期化しました。 事業の中身とは別の要因で株価が動いた時期があったという事実は、記録として押さえておくべきだと思います。
3社を並べて、そして世界の逆風を直視する
3社の位置づけを整理します。
| 企業 | バリューチェーン上の位置 | 強み | 課題 | 洋上風力の売上比率(推定) |
|---|---|---|---|---|
| 三菱重工業 | 販売・O&M、周辺機器(本体製造からは撤退) | ヴェスタス株の保有と国内サービス網。本業のエナジー・防衛が厚い | 風車本体の利益は取れず、業績への寄与が小さい | 1%未満 |
| 日立造船(カナデビア) | 周辺領域(基礎・関連機器)への参入段階 | ごみ焼却発電の安定収益。長期運営契約の積み上げ | 洋上風力の受注・売上を分離開示しておらず進捗を追えない | 開示なし |
| 東洋建設 | 基礎工事・据付・港湾整備(海洋土木) | 大水深の施工実績と専用作業船。案件着工が直接売上になる | 事業者の撤退で受注が消える。資材費・労務費の上昇を吸収しにくい | 数%程度 |
そして最後に、この産業が抱える逆風です。ここを飛ばした洋上風力の記事は、私は信用していません。
2023年以降、欧米では大型案件の中止と減損が連続しました。 デンマークのオーステッドは米国の大型プロジェクトを中止し、日本円で数千億円規模の減損を計上しています。 英国では上限価格が低すぎたために、洋上風力の入札で応札がゼロだった年があります。 風車メーカー側でも品質問題による巨額損失が発生し、米国では政策そのものが後退して認可済み案件まで止まりました。
原因は共通しています。資材費の上昇と、金利の上昇です。 洋上風力は初期投資が巨大で、回収に20年以上かかる典型的な資本集約型事業です。こうした事業では、割引率が数%動くだけで採算が反転します。 低金利かつ資材が安い時代の前提で入札した価格は、環境が変われば成立しない。日本も例外ではなく、 第1ラウンドの落札価格は当時としても攻めた水準で、その後の環境変化を吸収できずに落札者の撤退という結果になりました。 国は公募制度の見直しを進めていますが、「政策目標があるから案件は前に進む」という前提は、もう置けません。
現時点の見方をまとめます。洋上風力は日本のエネルギー構成を変える可能性のある分野ですが、関連企業の側から見れば、 3社ともこの分野で利益を上げている段階にはなく、本業で稼ぎながら参加しているのが実態です。 まず本業の状態を見て、そのうえで洋上風力の進捗をどう見積もるか、という順序が実態に合っていると考えています。 私が観察している数字は、公募の落札価格が入札ごとにどう変わるかです。価格が上がるなら、事業者が現実的な採算で応札し始めた証拠になります。
次回は、基礎構造物と港湾整備の側、つまり鉄鋼・海洋土木の受注環境を整理する予定です。 「この会社も比べてほしい」という要望があれば、コメント欄に書いてください。